
制限行為能力者とは
未成年者、成年被後見人、被保佐人、被補助人、これらの4者を総称して制限行為能力者と呼びます。また、それらの者を保護する者は未成年後見人、成年後見人、保佐人、補助人と呼びます。
後見人については過去のブログで記事をあげておりますので、そちらを参照ください。今回は保佐人について詳しく解説したいと思います。
保佐人とは
保佐人とは、精神上の障害により判断能力が著しく不十分な人の権利や財産を守るため、被保佐人が財産上の重要な行為をする際に、それが被保佐人の利益に適うかどうかを判断して同意を与えたり、同意を得ずに単独でしてしまった行為を後から取り消したりする人です。被保佐人は自然人に限られます。また、成年者だけではなく未成年者も対象となりますが、未成年者の行為能力の制限の方が大きいため、実益はあまりないといわれています。
下記に保佐人に関する民法条文を掲載します。
【民法条文】
(保佐開始の審判)
第11条 精神上の障害により事理を弁識する能力が著しく不十分である者については、家庭裁判所は、本人、配偶者、四親等内の親族、後見人、後見監督人、補助人、補助監督人又は検察官の請求により、保佐開始の審判をすることができる。ただし、第七条に規定する原因がある者については、この限りでない。
(被保佐人及び保佐人)
第12条 保佐開始の審判を受けた者は、被保佐人とし、これに保佐人を付する。
(保佐人の同意を要する行為等)
第13条 被保佐人が次に掲げる行為をするには、その保佐人の同意を得なければならない。ただし、第九条ただし書に規定する行為については、この限りでない。
一 元本を領収し、又は利用すること。
二 借財又は保証をすること。
三 不動産その他重要な財産に関する権利の得喪を目的とする行為をすること。
四 訴訟行為をすること。
五 贈与、和解又は仲裁合意(仲裁法(平成十五年法律第百三十八号)第二条第一項に規定する仲裁合意をいう。)をすること。
六 相続の承認若しくは放棄又は遺産の分割をすること。
七 贈与の申込みを拒絶し、遺贈を放棄し、負担付贈与の申込みを承諾し、又は負担付遺贈を承認すること。
八 新築、改築、増築又は大修繕をすること。
九 第六百二条に定める期間を超える賃貸借をすること。
十 前各号に掲げる行為を制限行為能力者(未成年者、成年被後見人、被保佐人及び第十七条第一項の審判を受けた被補助人をいう。以下同じ。)の法定代理人としてすること。
2 家庭裁判所は、第十一条本文に規定する者又は保佐人若しくは保佐監督人の請求により、被保佐人が前項各号に掲げる行為以外の行為をする場合であってもその保佐人の同意を得なければならない旨の審判をすることができる。ただし、第九条ただし書に規定する行為については、この限りでない。
3 保佐人の同意を得なければならない行為について、保佐人が被保佐人の利益を害するおそれがないにもかかわらず同意をしないときは、家庭裁判所は、被保佐人の請求により、保佐人の同意に代わる許可を与えることができる。
4 保佐人の同意を得なければならない行為であって、その同意又はこれに代わる許可を得ないでしたものは、取り消すことができる。
保佐人の職務
同意権および取消権
保佐開始の審判があると、被保佐人が法律で定められた財産上の重要な行為(民法第13条第1項)を行うには、保佐人の同意が必要になります。保佐人の同意を得ないでした行為は、保佐人又は被保佐人が後で取り消すことができます。ただし,日用品の購入その他日常生活に関する行為については同意の必要がなく、また後で取り消すこともできません。民法第13条第1項の行為とは、前述の条文に記載の通りですが、以下に具体例を記載します。(最高裁判所HPより転載)
〔民法第13条1項各号に定められている行為とその具体例〕
《1号 元本を領収し,又は利用すること》
・預貯金の払い戻し
・貸したお金を返してもらうこと
・お金を貸すこと(利息の定めがある場合)
《2号 借財又は保証をすること》
・借金をすること(金銭消費貸借契約の締結)
・保証人になること(債務保証契約の締結)
《3号 不動産その他重要な財産に関する権利の得喪を目的とする行為をすること》
・不動産の売却
・抵当権設定
・クレジット契約の締結
・不動産の賃貸借契約の締結(下記9号記載のものを除く)及び解除
・お金を貸すこと(利息の定めがない場合)
・通信販売(インターネット取引を含む)及び訪問販売等による契約の締結
・元本が保証されない取引(先物取引,株式の購入など)
《4号 訴訟行為をすること》
・民事訴訟において原告として訴訟を遂行する一切の行為
※相手方が提起した訴訟への応訴や,離婚・認知などの裁判(人事訴訟)は,保佐人の同意がなくてもすることができます。
《5号 贈与,和解又は仲裁合意をすること》
※贈与を受ける場合は,保佐人の同意は不要です。
《6号 相続の承認若しくは放棄又は遺産の分割をすること》
※被保佐人が遺産分割協議をするには,保佐人の同意が必要です。
《7号 贈与の申込みを拒絶し,遺贈を放棄し,負担付贈与の申込みを承諾し,又は負担付遺贈を承認すること》
《8号 新築,改築,増築又は大修繕をすること》
・住居等の新築,改築,増築または大修理を目的とする法律行為
《9号 第六百二条に定める期間を超える賃貸借をすること》
・民法第602条には,
①樹木の栽植又は伐採を目的とする山林の賃貸借は10年
②その他の土地の賃貸借は5年
③建物の賃貸借は3年
④動産の賃貸借は6か月
と定められています。
※賃貸および賃借のいずれの場合においても、これらの期間を超える契約をするには保佐人の同意が必要となります。
同意権の拡張
法律で定められた保佐人の同意権の範囲の他に、同意を要する行為を追加することもできます。その場合、別途申立てが必要になります。
代理権
家庭裁判所に「代理権の付与」の申立てをして代理権付与の審判がなされると、保佐人はその審判で定められた法律行為を被保佐人に代わって行うことができます。
この申立ては保佐開始の申立てと同時にすることもできますし、保佐開始の審判の後にすることもできます。また申立てに当たっては、ある程度具体的に行為を特定すること、代理権を付与することに被保佐人が同意していることが条件になります。
【民法条文】
(保佐人に代理権を付与する旨の審判)
第876条の4
家庭裁判所は、第11条本文に規定する者又は保佐人若しくは保佐監督人の請求によって、被保佐人のために特定の法律行為について保佐人に代理権を付与する旨の審判をすることができる。
2 本人以外の者の請求によって前項の審判をするには、本人の同意がなければならない。
3 家庭裁判所は、第1項に規定する者の請求によって、同項の審判の全部又は一部を取り消すことができる。
善管注意義務
保佐人は、事務の遂行に当たっては通常の注意義務よりも高度な注意義務が課されます。
【民法条文】
第876条の5
2 第644条、第859条の2、第859条の3、第861条第2項、第862条及び第863条の規定は保佐の事務について、第824条ただし書の規定は保佐人が前条第1項の代理権を付与する旨の審判に基づき被保佐人を代表する場合について準用する。
第644条
受任者は、委任の本旨に従い、善良な管理者の注意をもって、委任事務を処理する義務を負う。
身上配慮義務
被保佐人の意思を尊重し、かつ、その心身の状態及び生活の状況に配慮しなければなりません。
【民法条文】
第876条の5
保佐人は、保佐の事務を行うに当たっては、被保佐人の意思を尊重し、かつ、その心身の状態及び生活の状況に配慮しなければならない。
保佐人であることの証明
・ 登記事項証明書
保佐が開始されると、法定後見の種類、保佐人の氏名、住所、被保佐人の氏名、本籍、住所などが法務局に登記されます。登記された内容を証明するのが「登記事項証明書」であり、保佐人であることの証明書になります。一部の法務局で取得することができます。
・ 審判書謄本と確定証明書
審判書謄本、確定証明書の交付申請先はいずれも管轄の家庭裁判所です。
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スタッフ 上村